それでは本当に体液が酸性になっているのでしょうか。先ほども述べましたように血液のpHは厳密に緩衝されていますのでここを測定しても本当の水素イオン濃度はマスクされてしまっているので分かりません。ある程度の水素イオンの増減は血液のpHには反映されません。

そこで毛細血管と細胞の間にある細胞外液に注目してみます(図5)。ここには赤血球がないので緩衝作用は弱くアルブミンや少量のリン酸などの有機酸があるだけです。動物実験では水素イオン産生のもとになるブドウ糖を点滴すると臓器の細胞外液は酸性に傾くことが分かっています(4)。また、ラットの足の動脈を縛って血行を傷害すると筋肉内の細胞外液のpHは急速に下がります(5, 6)。これは酸素が欠乏して筋肉内に乳酸が溜り細胞外液中に乳酸が大量に溜まったことと、静脈の還流が悪くなって二酸化炭素が溜り、重炭酸イオンと水素イオンが大量に発生したことによると考えられます。また細菌の感染巣、例えば膿の周りの組織は酸性になっていることや(7)、炎症を起こした関節液は酸性になっていることも分かっています(8)。老化変性した椎間板も酸性であると報告されています(9)。

これらの諸々のデータは細胞外液のpHは血液とは異なり容易に酸性になったりアルカリ性になったりすることを示しています。つまり、私たちの血液を除いた体液のpHは食事や血行不良で大きく変化している可能性があります(図6、7、8)。

図5

図6

図7

図8

しかし、人体では細胞外液のpHを測定するには麻酔をかけて臓器を露出しなければならないので実際には容易ではありません。その代わりになるものとしては尿や唾液、涙液などがありますが、唾液は細菌や食物の影響が大きいこと、涙液は採取が困難なことから実用的ではありません。人体の分泌液の多くは重炭酸を含んでいてアルカリに調整されているので必ずしも細胞外液のpHを反映しているとは言えません(2,3)。ただし、高齢者では食事をしていないときの唾液が酸性の人は高血圧になる頻度が高いという報告はあります(10)。