さてここまでの話で水素イオンが体液に溜まって酸性体質になると実に様々な現代病を引き起こす可能性があることが分かったと思います。逆に言うとこの過剰な水素イオンを体液中から取り除くかもしくは水素イオンの発生を抑制して、細胞外液をアルカリ化すればこれらの悪循環が改善される可能性が高いと考えられます。ただし、それだけで既に罹患しているがんや糖尿病などの病気が治癒するわけではなく、これからこのような病気に罹患しないための予防に役立つ可能性があると理解してください。

それでは水素イオンを体に溜めないようにするにはどうすればいいのかということを考えてみます。

 

水素イオンを増やさない方法

これは体内に入って水素イオンを作るような食物を摂らないということになります。しかし、炭水化物、たんぱく質、脂肪は大なり小なり最終的には水素イオンを発生しますし、生きるために必須なエネルギーの源になりますので摂らないということはできません。ただし、必要以上に大量に取るのは避けなければなりません。

至極当たり前のことですがほとんどの食物は水素イオンの元になるということを考えながら食事の内容、量を考えるのが酸性体質を避けるためには重要です。

現代人は様々な食物に中毒になっていると考えられます。食事と関係したものではアルコール中毒が有名ですが、実は砂糖中毒であり、脂肪中毒でもあるのです。また水素イオンとは一見無関係なようで実は大いに関係のある塩分に対しても中毒と考えられます。多くの人は中毒とは思っていませんが、砂糖がいっぱいのケーキやチョコレート、和菓子などは女性にとってはなくてはならないものになっています。また脂肪を大量に含む牛肉や豚肉、ハム、ソーセージが好きな人もたくさんいます。砂糖はブドウ糖の元で直ぐにエネルギーとして使える重要な物質です。また脂肪も高カロリーでエネルギーの貯蔵庫として重要な物質です。

人間はもともとこのような生きるために必要な物質を求めるようにできているのです。味覚がこれを感知していて、いわゆる生存本能の一つといえます。食料が不足していた原始の時代や、飢饉による飢餓状態ではこれらの本能は生存するためには必須であったのです。しかし、この飽食、過食の現代では生存を脅かす本能、自殺本能とも言うべきものになっています。ねずみやイルカが時々集団自殺を行いますがそれに似たようなものかもしれません。ただし、これは中毒ですので止めさせることは困難です。

腹八分目というような節食や断食を勧める健康法や痩せるための様々なダイエットが成功しないのはこの中毒症状から抜け出せないことによります。そもそも一日三回食事をするのは江戸時代の後半からで、それまでは二食が多かったようです。ローマ時代でも庶民は二食でした。原始の時代は冬場などでは1ヶ月以上もまともな食事にありつけないこともあったのではないでしょうか。現在一日二食にしなさいといったら9割以上の人は根をあげてしまいます。

現代人はこれに間食までしています。その内容がケーキやチョコレート、スナック菓子などいずれもかなりの高カロリーなのです。しかもこれも止められない人が多いのです。

次にアルコールです。アルコールは肝臓で代謝されて最終的にはアセトアルデヒド、酢酸になるので水素イオンを大量に発生します。アルコールは気分を高揚させストレスの解消になるのは間違いありませんが酸性体質を避けるという点では毒ということになります。でもやはり止められない人は少なくありません。これもよく言われることですがほどほどにということになります。

以上から結論としては体内の水素イオンの産生を抑えるためには飢餓状態とは言いませんが各種の栄養素がそろったバランスの良い食事を我慢できる範囲で少量摂るということになります。もちろんある程度の空腹感に耐えなければなりません。

健康は健康になりたい人が目指すのであって、いつ死んでもいいやと思っている人にはまったく意味のないことなのです。ただそんなことを言っている人ほど病気になったときに後悔するということも事実です。

 

水素イオンを排出する方法

食事制限ができないのであれば体内に溜まった過剰な水素イオンを何とかして体外に排泄しなければなりません。次はその方法について考えてみましょう。

 

呼吸法

体内からの水素イオンの排出方法としては二酸化炭素として肺から呼気で出す方法と腎から尿として出す方法があります。また胃酸には大量の水素イオンが含まれていますのでこれも一つの排出方法と言えます。腎や胃からの排出は訓練しようがありませんが、肺からの二酸化炭素の排出は呼吸の工夫で増加させることが可能です。水素イオンの主たる排出は肺と考えていいと思います。二酸化炭素の排出がなぜ水素イオンの排出になるのかは前述したように、血液や赤血球に溶けた重炭酸イオンが水素イオンと結合して水と二酸化炭素になるからです。つまり二酸化炭素は水素イオンが形を変えたものと考えられます。この二酸化炭素と水が植物の葉緑素で太陽の光を浴びて炭水化物を作り出すこと(光合成)を考えると完璧な生物循環の偉大さに改めて感心させられます。

人類は古来より健康法の一つとして様々な呼吸法を編み出してきました。ただそれがなぜ健康と結びつくかについては未だに明解な説明はなされていません。一般的には酸素は人間が生きるためにはなくてはならないものなので、この重要な酸素をたくさん取り入れることが健康の元であると考えられているように思います。酸素は今までお話した中ではほとんど登場しませんが、ミトコンドリアでのエネルギー産生過程でできた水素イオンを中和して水にする働きをしています。とても重要な働きですがそれだけの機能しかないということにもなります。重要といわれる割にはあまり働いていない気もしないではありません。

原始の初期では生物は酸素がなくても生きることはできたのですが植物が光合成で産生する酸素が大気中に増えてきてこれが生物にとって強力な酸化作用を有するために毒性を発揮してきました。これに対抗してミトコンドリアの元になった細菌が酸素を水素に結合させて中和するようにしたのが始まりです。つまり、かつて酸素は今のように有益なものではなく毒であったのです。現在でも酸素はしばしば活性酸素となって人の体を蝕んでいますが、私は酸素よりも水素イオンのほうが様々な疾患にとって重要であると考えています。

他にも呼吸法の利点として呼吸筋を動かすことで運動量が増えカロリー消費に良いなどの説明があります。呼吸を鍛えることは体に良いことであることは間違いないと思います。人類は知らず知らずのうちに体に良いことや体に良い食べ物を見つけ出しているのです。これも生きるための本能です。

様々な呼吸法に共通しているのは呼気を重視している点です。二酸化炭素は体中からエネルギー産生過程で発生した水素イオンの副産物で、これを排出することは水素イオンを排出することと同等なのです。二酸化炭素は血液を通じて静脈から肺に運ばれ肺の袋に排出されます。この二酸化炭素のガスは肺の一番奥にある肺胞という小さな袋ほど高濃度になっています。これを対外に排出するには大変な力は必要になります。普通に呼吸しているだけでは過剰な水素イオンを除去できるほどの二酸化炭素ガスを十分に排出することはできません。そうなると肺胞内の二酸化炭素の濃度が上がり、血液から肺胞へのガスの移行が悪くなり水素イオンがさらに体内に溜まってしまいます。その結果体液が酸性に傾き健康に対して様々な弊害が生じます。

肺胞の二酸化炭素ガスを吐き出すには呼気をしっかりと最後まで力強く行うのが重要です。深く吸い込み長く最後まで吐くというのがポイントです。腹式呼吸でお腹をひっこめ、次いでそのまま横隔膜を持ち上げるようにすれば肺を圧迫することになり肺胞から二酸化炭素ガスを放出できます。健康診断や学校での肺活量の測定の時に思いっきり吐いて下さいと言われますがあれと同じです。毎回これをするのは困難ですが一日に何度かはこの呼吸をされたほうがいいと思います。訓練次第では比較的容易にこの呼吸法を行えるようになります。これにより水素イオンが放出され体液がアルカリ化すると気分も良くなります。

また酸性性体質では眠気を感じることが多いのですが、これで頭もすっきりします。長時間の車の運転ではあまり話をしないと呼吸がゆっくりと浅くなるので二酸化炭素の排出が悪くなり、水素イオンが溜まり体液が酸性になるために脳の活動が抑制され眠くなります。そんなときに手っ取り早く眠気を取るには深呼吸を繰り返すことです。もちろん人がたくさん乗った状態で車の中の換気が悪いと外気の二酸化炭素濃度が高くなり呼気からのガスの排出効果も悪くなるので窓を開けて換気をするのも重要です。

ついでですが、食後にしばしば眠気を感じるのも糖分の吸収と代謝で水素イオンが産生されて体液が酸性化するために脳の不活性化が起こるためではないかと考えます。食事で胃や腸管に血液がいくために脳の血流が減ることが原因いう説明は説得力がないのではないでしょうか。そもそも脳の血流量は厳密に管理されており簡単には減りません。

いずれにしても呼吸を鍛えることは体液に溜まった水素イオンを排出する効果的な方法であるといえます。しかも、安上がりですのでお薦めです(図20)。

図20

食事療法

昔から酸性体質は体に良くなくアルカリ体質にしなければいけないと言われてきましたが、なぜ酸性が悪くアルカリがいいのかという説明はまったくありませんでした。また俗に言うアルカリ性食品や酸性食品は食べることによって体内で水素イオンを作るのかどうかということではなく、食品を火で燃やして灰にした状態でアルカリ性金属が多いか少ないかで決めています。そのため実際に体質の改善に役立っているとは考えられません。アルカリ性食品を食べてもアルカリ体質にはなりません。それを知る一番簡単な方法は自分で食品を食べてみて2時間後ぐらいに尿のpHを測定してみることです。

アメリカで行われた研究では以下の食品が尿をアルカリ化するのに有効であると報告されています(11)。

アルカリ化食品:バナナ、イチジク、オレンジジュース、ジャガイモ、ホウレンソウ、メロン、トマトジュースなど

一般的には肉、魚などの大量の脂肪を含む食品や砂糖を多く含む食品は高カロリーになり酸性体質になります。炭水化物も最終的にはブドウ糖になるので酸性化を促進する可能性があります(13)。野菜や果物、豆類はセルロースを含み消化されにくいのでカロリーは低く酸性化しにくい食品です。果物には果糖を多く含むものがありますがこれはブドウ糖が少なくエネルギー減として効率がよくありません。果物にはクエン酸が含まれているので体液のアルカリ化にむしろ有効と考えられます。いずれにしても、カロリーがまず問題になるのでどのような食品をとるにしても高カロリーにならないことが重要です。人体では作ることのできないビタミン類、必須アミノ酸、必須脂肪酸、ミネラル類を欠かさない食事で、カロリーの高くないものを心がけるしかありません。

アルコールは前述したように最終的に水素イオンを大量に産生するので体の健康という点からはお勧めできませんがストレスからの解放という点からは週に2~3回適量飲むのは問題ないと考えます。

お酢やヨーグルトなどの乳酸食品は、クエン酸と同じく、そのもの自体は水に溶けると酸ですが食事としてとれば胃酸と混ざって十二指腸で膵液により中和されますので体内に酸を増やすわけではありません。むしろ小腸から体内に吸収されると水素イオンと結合して細胞内に取り込まれてエネルギー源として利用されると考えられます。ただし、吸収はイオンチャンネルを介するので効率が悪く、大量に摂取しなければ体液のアルカリ化は困難と考えます(23)。

食品でもっとも気をつけなくてはいけないのが加工食品です。これらは人が美味しいと感じるように様々な味付けが人工的にされているので、知らない間に食べ過ぎてしまいます。砂糖、食塩、脂肪は味付けの基本で、すぐに人々を中毒にしてしまいます。これはもう自分自身で気を付ける以外に方法はありません。しかし、子供たちには大人が規制してあげなくてはならないでしょう。アメリカでは肥満の子供が大きな社会問題になっていますが、たばこやアルコール、麻薬などと同じで打つ手がないのが現状です。特に食品は大規模な経済市場なので政治では規制できないと考えます。自らが規制することが大切です。

低カロリー食が健康に良いという証拠の最たるものは菜食主義者と断食主義者です。菜食主義の人は肉食中心の人よりも病気になりにくく健康で長寿であることは明らかです。がんの発生頻度も低いことがわかっています。また一日に1回しか食事をしない人も同様です。

 

運動療法

食事で規制できなければ運動でカロリーを消費するしかありません。しかし、プロスポーツ選手でもない一般社会人は20代後半以降になると学生時代のように活発に運動することはできません。また経済的に余裕ができるためむしろ高カロリーな美食嗜好になり、カロリー吸収とエネルギー消費のバランスが悪くなります。つまり散歩やジョギング程度の運動ではこの高カロリー食を凌駕することはできなくなります。メタボリック症候群に対して毎日の適度な運動を進めていますが、その程度では酸性体質は改善できないと考えます。若いころの体型が維持できていないということがすべてを物語っています。

ただし、これ以上肥らないためと筋力維持のためにはやはり運動は必要です。しかし、多くの人が経験しているように軽い運動といえども毎日、数十年も続けることは容易なことではありません。メタボリック症候群の改善にはやはり食事制限が最も効果的と考えます。

 

サプリメント療法

健康で長生きはしたいけれども食事制限も嫌、運動も嫌というわがままな人(おそらく大多数の人)にはもうあとは薬かサプリメントしかありません。

現在、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、糖尿病、骨粗鬆症などの患者さんに驚くほどたくさんの薬が投与されています。医療費が高騰している大きな原因です。食品業界と薬業界の合同作戦ではないかと思うほどこれらの業界は儲かっています。片や病気を作り、片や症状だけを軽減させ原因を取り除こうとしない。両者の間にいる医者もそれに気付いていないか、気付いていても知らないふりをしている。でもそれで大量消費の経済社会は潤っている。これらの業界で飯を食っている人も同じ患者になっているのだから結局は、みなさんはこの悪循環に気付いていないのでしょう。

10年ほど前までは社長や会社の偉いさん、政治家、医者などは太鼓腹でぶくぶくと肥り、顔は赤ら顔というのが定番でした。最近はさすがにそれだと示しがつかないのか少しはスリムになったようです。でも高カロリー病のほうは一向に減る様子はありません。

薬はともかくサプリメントでメタボリック症候群を予防できないかと考える人は多いと思います。ここで如何に人間はずぼらな生き物かということを示す面白い話があります。前にも話しましたが人の細胞には飢餓になってもしばらくは生き残れるようにする長寿遺伝子というものが備わっています。これは食事を減らして飢餓状態にすればその遺伝子が活性化され長生きできるということです。しかし、自ら望んで飢餓状態になりたい人はほとんどいなくて、それをレスベラトールという植物性のサプリメントで誘導できると発表された瞬間にみなそれに飛びつきました。結局は、それは思ったほどの効果がないことが分かったのですが、それにしても本当に健康になりたいのなら食べたいものを我慢するくらいのことすらできない根性のない人類が如何に多いかということですね。結局は繰り返しになりますが健康は健康になりたいと心から願う人だけが手に入れられるということを分かっていないようです。

それでも何とかできるだけ簡単な方法で健康長寿を手に入れたいという人のために少し考えてみましょう。